月々のお手入れ

9月のお手入れのポイント

 

  1. 剪定後の手入れ:剪定前後のトラブルの対処

  2. 病害虫防除:新芽が伸び出すと病菌や害虫も増える

  3. 施肥・水やり:元肥与えてあれば追肥原則不要

     

    1.剪定後の手入れ

     このホームページの記事は、関東以西、特に東京圏中心の手入れについて述べています。(筆者が神奈川県在住のため)南北に細長い日本は、基本的には同じでも、各地域の手入れとなると、北海道の栽培法と南国沖縄の栽培法は、まるで違ってきます。このホームページの手入れには限界がありますから、これ以上のことについて知りたい方は、ぜひ(公財)日本ばら会にご入会ください。ベテランの生の声も聞けるし、寒冷地の手入れについても、機関紙‘ばらだより’で知ることができます。

     関東以西では、91日前後2週間(825日~97日)ほどが、秋の剪定の適期です。剪定については8月の手入れに書きましたので、剪定前後の手入れや工夫について述べてみます。

     剪定の原則は、枝を切って刺激を与えると、その部分や先端付近に植物成長物質(植物ホルモン・主としてオーキシン)が集中し、新芽を伸ばす性質を利用したものです。剪定しなくても、頂芽優勢で花がらのすぐ下の1枚葉や3枚葉の芽が伸び出します。この芽は短い枝ですぐ花が咲き、開花期も不揃いで小さな花になります。3枚葉の下に同一の葉柄に5枚の葉がつく、5枚葉や7枚葉、多い時は9枚になることもあります。これらの葉を本葉と言って、1枚葉や3枚葉と区別しています。5枚葉の上で切ると、それまで伸び出さなかった芽の頂芽優勢の抑制が除去されて、芽が伸び出し、長い枝に大きな花が咲くようになります。また、同じ5枚葉(本葉)でも、同じ枝の上部の葉のつけ根にある芽は、早く伸び出して枝も細く、花も小さくなりがちです。下に行くほど茎はゆっくり伸びて長くなり、花も大きくなるのですが、下部の枝を切った付近やシュートをピンチしてコブ状になった近くの芽は、どうかすると芽が伸び出さず、休眠芽となる危険があります。その原因は、植物の芽がまだ表面からは見えない状態の時に、内部ではすでに枝の原形ができているのです。その枝の葉やつけ根にある芽は、下部から順に上部に向かってつくられるので、地上部に現われた枝の葉やそのつけ根の芽は、上部が最も遅くつくられ、下部に行くほど早くつくられた葉や芽なのです。そのため、上部の芽で剪定すると、発芽抑制期間が短いので、早く伸び出しやすく、下部に向かうほど抑制期間が長くなるので、枝の中程が素直な芽が伸びやすく、最下部になると芽の伸びが遅くなったり、まったく伸長しなかったりするのです。そこで、剪定枝の中ほどのピラミッド型の、今にも伸び出そうとしている芽を選んで切る訳です。

     8月に剪定された方は、うまく切れたでしょうか。これから剪定なさる方は、この点に注意を払ってハサミを入れてください。

  1. 剪定後芽が伸びない。

    順調なら1週間ほどで、枝を切った切口やその下の芽が23芽伸び出します。ところがいくら待っても芽が伸びず、ひどい時は秋花が見られないこともあります。これはあまりあることではないのですが、HT種(大輪四季咲き種)のレッドライオンという名のバラは、芽が伸び出さない典型的な品種です。剪定時にたくさん葉を切り落としたので、光合成に大切な残り葉ですが、剪定と同時に切除箇所の最初の葉をむしり取っておきます。剪定の刺激だけでは不十分だったのが、葉をむしり取ることによって揃って出芽します。剪定後1週間経っても全く芽が伸びない時は、剪定部位の葉を12枚取り除いてください。間違いなく芽が伸び出します。そのほか、あけぼの、マダム・ビオレ、大文字なども出芽しにくい傾向があります。剪定部位に葉が無くても、ほかに23枚あれば全く遜色のない花が咲きます。

  2. すべての葉が無くなった。

     先月も述べましたが、剪定時に葉が1枚もなくても軽く枝を切って、発芽を促してください。細い茎でも花をつけてくれるし、花が咲かなくても、来年のために少しでもバラの樹に力を蓄えさせてください。あきらめて放任するのが最もよくないことです。

  3. 長く伸びたシュートがすべて落葉。他の枝には少し葉がある。

    秋に良花を期待したシュートの葉が無くなっては、がっかりですね。でも、あきらめないてください。ほかの枝に葉が残っているのはラッキーです。命の綱の光合成産物をきわめて微量でも、シュートに送ってくれます。剪定予定日の7日ほど前に丸坊主になったシュートを、途中から横に倒してください。曲げた部位や水平にした位置から、芽が伸び出します。春花が咲いた枝に葉が残っていたら、その枝は剪定せずに少しでも多く葉を残し、伸び出してくる芽はすべてかきとってください。

    バラの枝は、いわば独立主義です。同一の枝の葉で光合成した炭素産物は、原則として同じ株のほかの枝がどんなに弱っても、決して分け与えません。人間社会のようには行かない非情の世界です。あくまでもその枝を伸ばすためだけに使われます。ただし、開花中のわずかな期間だけは、炭素産物の行き場がなくなり根元付近に転流し、株全体の栄養分として蓄えられます。そこで初めて葉がなく弱った枝に養分が供給されるのです。残り葉から伸びた芽をかき取るのもこの理由からです。目に見えるほどの効果はないかも知れませんが、実施してみてください。

     

    2.病害虫防除(病気予防と害虫駆除)

     8月の猛暑に耐えていたバラは、幸いにも晴天のお陰でクロホシ病とウドンコ病に冒されにくくなっていました。かなりひどくクロホシ病にやられていた方も、ほっと一息ついていることでしょう。ところが、剪定後伸び出す若い芽は、9月の長雨で病原菌に冒され易くなります。油断なく10日ごとの定期散布を心がけましょう。

     基本的なことですが、クロホシ病の葉を見つけたら、ただちにその病葉を葉柄ごと取り除きます。病菌が付近にあるものと考え、病葉の上と下の葉も健全に見えても、冒されていると推察して取り除き、治療薬のサプロール乳剤やマネージ乳剤、ラリー乳剤を十分散布してください。この場合、慌てて全体に薬剤を散布する必要はなく、スポット的にその株や隣の株ぐらいの範囲で結構です。ただし、6月~7月にクロホシ病に冒されたバラは、全体に治療薬を使用した方がよいでしょう。ウドンコ病もしつこく発生しますが、不完全でも何とか抑えておけば、クロホシ病ほどの被害はありません。

     害虫では、ハダニがまだまだ猛威を振るいます。ハダニ駆除のコツは、なるべく年に23度使用した殺ダニ剤は年内は使わないことです。同じ薬剤を使い続けると、その薬剤に強いハダニだけが増加して、薬剤が効かなくなります。また、殺ダニ剤には薬剤成分が葉の内部に浸透する浸透移行性がなく、葉上での効果期間も短いので、無駄になります。ルーペなどで葉裏をのぞき、動き回るハダニを見つけてから散薬してください。

     ハダニは一般の殺虫剤はほとんど効きませんから、殺ダニ専用の薬剤を使います。その際、なるべく殺卵、殺幼虫、殺若虫、殺成虫すべてに効果のある薬剤を使用してください。上手に使えば月1回の散布で駆除できます。

     そのほか、シャクトリムシやヨトウガなども油断できません。最近目立っている「オオタバコガ」の被害はすさまじく、秋バラが全滅することもあります。剪定後、新芽が伸び出す頃から(8月下旬~9月上旬)第3回成虫が発生するので、コテツフロアブルやアファーム乳剤などを散布すると防除できます。

     

    〈薬剤調合例:水1リットル当たり〉(原則として10日おきに散布)

     

    オルトラン(水和剤)       1g       1000倍(殺虫)

     又は、アドマイヤー(フロアブル) 0.5g   2000倍(殺虫)

      ※上記2種を交互に使用するとよい

     ダコニール(フロアブル)     1g 1000倍(ウドンコ病・クロホシ病)

    ※病気が出た時(上記に追加又は単独で)

     ラリー(乳剤)          0.33g   3000倍(クロホシ病治療)

     又は、マネージ(乳剤)      1g       1000倍(クロホシ病治療)

     トリフミン(乳剤)        0.5g    2000倍(ウドンコ病治療)

    ※ハダニを見つけたら(上記に追加又は単独で)

    ダニトロン(フロアブル)・コロマイト(水和剤)ダニカット(乳剤)

     【倍率は説明書を見てください】

      

    ※上記の薬剤は、殺卵・殺幼虫・殺若虫・殺成虫すべてに効きます。なるべく同一薬剤は、年2~3回の使用としてください。(使用回数は薬ビンの説明書に書いてあるので、それを守ってください)

     

    3.施肥・水やり

     78月に元肥を施してあれば、普通の土壌なら追肥は不要です。砂地などの肥料もちの悪い土地の場合は、月1回速効性の高度化成肥料なら1株当たり2030グラム、普通化成肥料なら4060グラムほどを根周りに撒きます。

     元肥を入れない追肥方式の方は、月2回ほど化成肥料なら砂地の追肥と同じ量を与えましょう。有機質の発酵済み肥料なら、毎月11株当たり100グラムほどになります。

     鉢植えは、鉢の大きさに応じて、有機質の発酵済み肥料なら月12回、7号鉢で1520グラム、9号鉢なら3035グラム、10号鉢で4050グラムほどを置肥します。高度化成肥料なら7号鉢で45グラム、9号鉢なら89グラム、10号鉢で1013グラムほどを置肥します。普通化成肥料の場合は、肥料成分に応じて増量してください。また、肥料切れを起こさないよう、速効性の肥料ではなく、粒状のやや遅効性の肥料で半月ぐらい保つ物を使うようにしましょう。

     地植えでも鉢植えでも、伸び出した枝の最下部の葉色が薄くなるのは、多くの場合チッソ不足です。そんな兆候があったら、速効性の化成肥料を追肥してください。たいてい葉色が元に戻ります。また、その葉が黄化して落葉するのもチッソ不足のことが多いので、同様に処置すると落葉が止まります。

     剪定後、新芽が伸びてくるとバラは水を欲しがります。新梢を素直に伸ばすために十分水やりしましょう。9月は雨量が多いのですが、毎年多いとは限りません。表土が乾いたら十分水やりが基本です。ただし、ここで水やりを一工夫すると、素晴らしい花になる確率が高くなります。バラの芽が伸び出して14cmになる頃、花芽分化と言って、それまで葉だけだった芽に花の基ができあがります。この期間はなるべく刺激を与えないことが大切で、水やりを控えて肥料分を少なくすると、良花ができやすくなるようです。これは比較テストを行ったわけではありませんが、一部の人達が行っている方法です。また、芽出し肥えと言って、剪定直後に速効性の肥料を施すのも、花のためには悪影響なので止めた方がよいでしょう。

     鉢植えのバラは、気温の低下とともに、徐々に水やりの回数が減ってきます。鉢土の表面がやや乾いたら、内部も少し水不足になる頃だと察知して、十分水やりするのは、いつもの通りです。真昼は避けるとか、夕方はやらずに朝がよいなど、色々な事を言われますが、乾いたらやるのが原則です。狭い限られた範囲内の根は、自由に水を求めたり、肥料を求めて伸びることはできません。新梢の枝先がしおれるほど水不足にするのは、かなりのストレスでバラの生育も弱ります。十分注意する必要があります。そんな時は真夏の昼間でも水やりしなければ枯れることもあります。朝がよいと言われるのは、光合成を活発にするために十分な水が必要なので、それに備えることと、晴天なら葉からの水分蒸散も多くなることなどからです。逆に夕方は水やりを控えるのは、夜間は光合成を中止することと、葉からの水分蒸散が少なくなるので、あまり水を必要としないからです。また、夜間水が多すぎると茎や枝が徒長して軟弱になり易くなります。

    また、鉢内に根がいっぱいになりすぎたり、水の通り道ができて、鉢内全体に水がしみ渡らなくなったりします。2回に分けて水やりするのもよい方法です。表土を軽く中耕してください。鉢土の表面をびっしり覆っている白根がほぐれて、水の通りがよくなります。鉢数が少ない方は、月1度たっぷり水につけるとよくしみ渡るようになるので試してみてください。

     

    文責・成田光雄