月々のお手入れ

10月のお手入れのポイント

  1. 台風対策:直撃受けても来年は大丈夫

  2. 病気の予防と害虫駆除:花どきでも油断大敵

  3. 肥料・水やり:肥料は水に溶けて効く

     

    1.台風対策

     ハウスなどの設備でバラをつくっている方は、猛烈な台風の直撃で、ビニールが飛ばされることがなければ涼しい顔ですが、露地栽培のほとんどの人達は、台風予想を聞きながら枝を支柱に結んだり、風除けを工夫したりと、おおわらわです。予想が外れれば無駄な作業だったり、予想進路が少し外れた時は被害が軽くて喜んだりの繰り返しです。

     ところが、直撃を受けたらひとたまりもありません。見るも無残なバラを前に呆然と立ち尽くすのみです。この時ばかりは農家の人々の苦労を思い浮かべます。でも、気を取り直して、倒れた株を起こしたり、葉をなめてみて塩分を感じたら、残った葉をなるべく早く清水で洗うことが大切です。ホースにハス口をつけ、勢いよくシャワーを浴びせてください。

     海岸近くでは、台風が運んだ大量の塩分が枝や葉に付着していることが多いものです。シャワーは早いほどよく、乾いてこびり付いたものはなかなか落ちません。雨台風のときはそれほどでもないのですが、雨が少ない風台風のときは被害が甚大です。経験的には、いったんこびり付いた塩は簡単には落ちないので、かなり長時間シャワーをかけてください。

    海岸近くだけでなく、大量の塩分は内陸の奥深く、埼玉あたりまで被害を及ぼします。台風一過のあと、超高圧送電線のガイシが火花放電を起こしていることがありますが、これも塩分付着によるものです。内陸部の人も油断は禁物です。

    10月に台風で失った花は取り戻せませんが、10月初旬なら、その後新芽が伸びて関東以西で暖かい年なら、年内に咲くこともあります。

     長く伸びたシュートが根元や途中で折れてもガッカリしないでください。バラは元来丈夫な植物です。来春には不死鳥のようによみがえります。根元からずたずたになっても、根さえしっかりしていれば若芽が伸び出します。そういう意味でも、折れた枝を手当てし、倒れた株を起こして元に戻してやりましょう。

     

    2.病気の予防と害虫駆除

     10月の初旬には、ステム(花枝)の伸びもほとんど止まり、葉も固まってきます。蕾も日ごとにふくらみ、早いものはガクの間から,ちらほら色をのぞかせます。花どきに散薬して、薄い花弁を傷めたり汚したりしたくないので、なるべく開花前に2~3回集中的に薬剤散布をして、病原菌や害虫を防除(予防と駆除)しておくとよいでしょう。もちろんウドンコ病やクロホシ病にかかっていたり、ハダニやアブラムシがはびこっていたら、花どきでも散薬は欠かせません。部分的に発生しているようなら、スポット的に行ってください。5年以上バラをつくっていて、秋にもクロホシ病が出ていなければ、優秀なバラづくりと言えるでしょう。

     ほころびかけた蕾や開いている花には、面倒でもビニール袋をかけて散薬すれば、花が傷んだり汚れたりすることはありません。

     また、秋に多いアザミウマ類(スリップス類)は、スミチオン(乳剤)の1000倍液を花に直接噴霧しても、花弁は傷まず、アザミウマ退治に効果があります。アザミウマは花弁の間に潜み、花の液を吸って花弁を汚らしくするので、放置すると著しく観賞価値を損いがっかりさせられます。この虫は主として花の中にもぐり花弁を傷つけて、その傷口から養分液を吸う、体長1mm前後の黄色い小さな虫です。動きが早く、飛び跳ねたりします。白や黄、薄ピンク色の花が侵されやすいようです。

     今月はアザミウマ類について、もう少し詳しく述べてみます。この虫に侵されると、せっかく咲いた花がなんとなく汚れて見えます。花を上からのぞくと、花弁の間やつけ根、花芯などに黄褐色の小さな虫が動き回っているのが見えます。息を吹きかけると、慌てたようにピョンピョン跳ね回ります。葉にも寄生することがあります。ひどいときはハダニに侵された時のように汚くなりますが、あまりひどくなることは稀です。アザミウマ類は雑食性なので、いろいろな花や雑草にもいるので、ばらの花が咲く頃には、そこから飛んできます。

     高温・乾燥を好む虫なので、5~6月から夏場に大繁殖して被害がひどくなります。この虫は白色に誘引される性質があり、バラも白色系が真先に侵され、次いで黄色、ピンク、オレンジ、赤、濃赤と被害は少なくなります。バラに加害するアザミウマは少なくとも次の6種が知られています。

     ヒラズハナアザミウマ・ミカンキイロアザミウマ・クロトンアザミウマ・ビワハナアザミウマ・ハナアザミウマ・ネキアザミウマです。この虫の生態はよく分かっていないのですが、おそらく成虫で越冬し、春から秋にかけて何世代も繰り返すので、卵は花弁の中に産むと思われています。卵期は2~7日、温度条件にもよりますが、25~30日で1世代を完了します。成虫は2対の羽根を持ち、普段はたたんでいるので、羽根のない幼虫と区別がつきにくい虫です。

     幼虫も成虫もともに花弁の中にもぐり込んで、花弁を傷つけて養分を吸汁するので、花弁は壊死して褐変し、ひどい時は花が開かなくなり、灰色カビ病がつきやすくなります。

     防除法としては、毎年この虫の被害を受けている時は、咲き終わった花を早く切り取って処分し、夏の花は惜しがらず蕾のうちに切り取ります。太陽の反射光を嫌うので、銀色の反射質材(シルバーマルチ、シルバー寒冷紗)をマルチングに使うと効果があるようです。

     薬剤散布では発生初期の効果が大きいので、発見次第ベストガード水溶剤、モスピラン液剤などを7~10日おきぐらいに散布します。スミチオン乳剤もよく効きますから、これらをローテーション散布してください。

     尚、薬剤はバラに適用登録されているものの他、‘花き類・観葉植物’に適用登録されているものも使用できますが、バラではなく‘花き類・観葉植物’となっている時は、バラについての薬害などのテストが不十分なことがあるので、全面使用の前に部分的にテストするのが無難です。また、一般的に言えることですが、例えば希釈倍数が1000~2000倍の時は、2000倍以上に薄くして散布するのも規定違反です。もちろん1000倍より濃くするのも不可なので注意しましょう。年間総使用回数や散布面積当たりの散布量も書いてあります。10アール当たり300リットルなら1坪当たり1リットルとなります。

    〈薬剤調合例:水1リットル当たり〉

    (原則として10日おきに散布)

    オルトラン(水和剤)       1g   1000倍(殺虫)

    又はアドマイヤー(フロアブル)  0.5g       2000倍(殺虫)

    ※上記2種を交互に使用するとよい

    ダコニール(フロアブル)     1g          1000倍(ウドンコ病・クロホシ病)

  • 病気が出た時(クロホシ病が出たらラリー、又はマネージを、ウドンコ病が出た時はトリフミン、又はルビゲンを上記に追加、ウドンコ病とクロホシ病が同時に発生した時はダコニールを止めて、それぞれの治療薬を散布)

    ラリー(乳剤)          0.33g 3000倍(クロホシ病治療)

    又はマネージ(乳剤)       1g    1000倍(クロホシ病治療)

    トリフミン(乳剤)        0.5g      2000倍(ウドンコ病治療)

    又はルビゲン(水和剤)      0.33g    3000倍(ウドンコ病治療)

    展着剤                         0.2g  5000倍(乳剤が入っている時は不要)

     

    3.肥料・水やり

     秋の元肥が施してあれば、砂地などで肥料の流亡が早い特殊な庭を除いて、今月も施肥は不要です。追肥方式の方は、高度化成肥料(チッソ:リンサン:カリが151515)なら月2回、坪当たり100~150g、普通化成肥料なら成分量に応じて200~300gほどを根周り30cmほどの円周上に撒きます。化成肥料には速効性のものから遅効性のものまで色々工夫されたものがあるので,性質によって使い分けてください。例として述べているのは、普通の化成肥料についての使用頻度です。有機質の発酵済み肥料なら、月初めに600gほどなのも、いつもの通りです。花どきに肥料分を少なくしたいので、今月はこれだけにします。施肥後たっぷり水やりするのも、いつもの通りです。早く効かせたいのと、雨がしとしと降って高濃度に溶けると悪影響があるからです。

     鉢植えのバラは、いつものように発酵済みの有機質肥料なら、月1~2回、5号鉢で5グラム、7号鉢なら15~20グラム、10号鉢なら40~50グラムほどを置肥します。高度化成肥料なら、5号鉢で1.3グラム、7号鉢なら4~5グラム、10号鉢なら10~13グラムほどになります。普通化成肥料の場合は、肥料成分が少ないので成分に応じて増量します。鉢植えは水やりが多いので、肥料も早くなくなります蕾が色づくまで置肥を続けてください。

     昔の植物学者が真剣に議論したのは、植物の根は土が含有している肥料成分を、根を伸ばして取り込みに行くのか否か、という点でした。当時は取りに行くのが主流だったそうです。やがてそれは誤りで、水に溶けた肥料成分が根の周りにあると、それを吸収することが分ってきたそうです。菌根菌などの仲立ちで吸収することもあるのですが、大部分は電気的にイオンの形の3要素、チッソ(N)やリンサン(P)カリウム(K)を始め、各種の微量要素もすべてイオンの形で吸収されます。肥料成分を吸収するバラの根は、白根と呼ばれる白色の根の先端から少し上の毛根という細い根がたくさんある部分です。細い毛根は体積当たりの表面積が広いので、肥料成分や水を太さの割には多量に吸収できるわけです。また根の細胞膜はとても精密にできていて、細かい網目状で、小さな水の分子は自由に出入りできるのですが、その他の物質は通りにくい構造になっています。高校の化学の時間に学んだ人も多いと思いますが、いわゆる半透膜の構造です。水はバラの樹液より薄いので(水の密度は高い)、浸透圧に応じて樹液を薄めるように浸透します。

     ところが、例えばリンサン(H2PO4)についてはリンサンが通過できる大きさの‘チャネル’があって、普通は閉じているのですが必要に応じて開き、しかも電気的に根の細胞壁がプラスの電位にならないとマイナス電位のリンサンは浸入できません。これらの関係は、、ほかの要素についても、プラスかマイナスかの違いはあっても同様です。

     本来根の細胞膜は外液に対してマイナス電位で安定しているので、プラス電位になることは少なく、体内のマイナスイオンを放出して一時的に細胞壁がプラス電位になり、リンサンチャネルが開くとマイナス電位の水に溶けたリンサンイオンがバラの体内に侵入することになります。

     難しそうなことはこれくらいにしますが、このような仕組みになっているので、やたらに肥料を与えても、すぐ効くのではないことを知っていて欲しいのです。秋の花が咲き終わって、耐寒性をつけさせようとカリウムを追肥するのは、あまり意味のないことです。バラ自身が寒さに向かって必要ならば、カリウムチャネルを開いて取り込みます。その時チャネルのそばにカリウムがあれば入るのです。バランスのよい肥料を与えていれば、いつでも各種の成分が水に溶けて準備されているので、特別に追加する必要はないわけです。

     肥料と水は表裏一体です。肥料が十分あっても水不足では肥料不足と同じです。また、水は十分あっても肥料が足りなければ結果は同じなのです。適量の肥料成分が過不足なく水に溶けて、毛根の周りを包んでいるのが、良好な状態なのをイメージして手入れに励んでください。また、微生物が分解してイオン化する有機質肥料よりも、始めからイオン化している化成肥料の方が早く吸収されるので、あまり化成肥料を毛嫌いせずに、適宜使い分けることがよいのです。

    文責・成田光雄